心理学では、知能だけが研究対象になっているわけではありません。人間の様々な行動やその背景になっている精神の仕組みが研究対象になっています。一般に、物理学で扱わない領域は全て心理学の研究領域だとされていますので、心理学の研究領域は非常に広いです。

遺伝と環境の問題も、知能を始め、人間の様々な行動の決定要因として、それぞれがどれぐらい影響しているのか、昔から研究が盛んです。そこで、最近の研究としてマスメディアで取り上げられた研究を見つけましたので、紹介します。

遺伝と環境が様々な形質に与える影響を表すグラフ
遺伝と環境が様々な形質に与える影響
引用元:数学は87%、IQは66%、収入は59%が遺伝の影響! 驚きの最新研究結果とは(AERA dot.)

それにしても不倫とかマリファナとかどうやって調べたのか興味深いですね(笑)

このマスメディアの記事は「驚きの最新研究結果とは」等という文言が踊っていますが、別に驚きでも何でもありません。しかも、これを見ていると、これまでこういう研究がされていなくて、今回初めてこのような研究がされたかのような印象を与えますが、大昔から行われている研究のリピートの一つに過ぎません。

映画だとリメイクみたいなものです。しかも何百回目とか何千回目とかいうリメイクなので、もはやこの研究が正確に何回目なのか誰もわかりません(笑)。

学会で、こういう研究はよく発表されていますが、誰も興味がないので、見に行く人は、まずいません。その部屋で発表している他の人が付き合いで見ているだけです。(^ ^; 失礼なので、寝ているわけにもいきませんから。

当然ですが、研究により、遺伝要因と環境要因の影響の割合は変わってきます。上はいろいろある中の一例だと理解して下さい。

なぜ変わるかというと、まず母集団の問題があります。たとえば、知能を調べるにしても、誰を調べるのかと言う問題があります。その辺を歩いている人を捕まえて知能テストをやるわけにもいきません。住民台帳を調べて、そこから無作為抽出(ランダムに選ぶこと)するのが一番いいのですが、国勢調査並の費用がかかります。そんなお金は個人の研究では出せません。というか、国が出してくれません。

大方、この研究をやった慶応大学の先生が教えている学生とか、弟子の教えている小中高の学校の生徒を使ったのだろうと思います。グラフ内に「成人期初期」というのがあるのが、笑えます。大学生のことですね。それも慶応大学の(笑)。

仮にそうだと仮定しましょう。しかし、慶応大学の学生の知能が日本全体の同年代の知能であるとするのは、無理です。そこに、この研究の限界があります。

また、母集団の大きさ(調べた人数)も重要です。10人や20人ではあまり信用できません。一般に各集団30人以上必要です。100人以上であれば、誰も文句は言わないでしょう。無作為抽出で30人以上はかなりハードルが高いです。しかも、前述のように、まず絶対に無作為抽出ではありません。

他には、知能の測定方法です。児童期と青年期と成人期初期で全部同じ方法で知能を測定しないといけません。しかも、その測定方法に高い妥当性がないといけません。しかし、そういう方法はないので、恐らく、別々の方法で知能を測定したものと思います。

そうでなければ、妥当性の欠けた測定方法を全部の年齢層に実施しただろうと思います。つまり、児童期には妥当性があるけれども、青年期や成人期初期には妥当性がない知能テストを使ったなどの可能性があると言うことです。

たとえば、ビネー式の知能テストは小学生と中学生には使えますが、高校生や大学生では評価のための基礎データに妥当性がないため、参考にしかなりません。逆に、成人用の知能テストとしてよく使われるWAISは、小学生や中学生には使えません。全年齢共通の知能尺度はないのです。

後は、母集団の性質も問題になります。遺伝と環境の影響を調べるとなると、一卵性双生児と二卵性双生児のデータを使うのが普通ですが、二卵性双生児の場合、性別が同じ場合と違う場合(男と女)があります。この点を絞り込んだかどうかは重要です。

環境要因を抽出するのはもっと面倒です。大体、双子というのは、一卵性だろうと二卵性だろうと、ある程度似たような環境で育ちます。養子としてどこかにもらわれていっても、環境が著しく違う親に育てられることはありません。

そこまで考えると、二卵性双生児であっても、親は同じなので、遺伝的には大差がないでしょう。これを遺伝的に違うと言えるかどうかが問題です。

考えれば考えるほど、このグラフがあやしく思えてきますね。

そもそも、遺伝とは何かを考える必要があります。DNAが伝えているのは、タンパク質の合成の仕方です。だから、遺伝されているのは、タンパク質の作りであり、知能や性格、行動の仕方というものではありません。

DNAのモデル
遺伝子の本体であるDNA(デオキシリボ核酸)はタンパク質を指定しているだけです。
引用元:DNA (Wikipedia)

しかし、このタンパク質の作りが神経細胞の働き方や内分泌器官の働き方に影響を及ぼすため、結果として、知能や性格、行動の仕方に影響が出ると言うことです。当然、そこに環境が関わってきます。つまり、こういう環境で、こういう性質を持った神経細胞や内分泌器官が機能すると、こういう結果になり、それが、知能や性格、行動の仕方の違いを生むと言うことです。

そうなると、多くの形質で、遺伝と環境の影響力の割合は、状況次第で大きく変化すると考えた方がいいだろうと思います。

実際に、ソフィア外語学院で英語を教えていると、遺伝や環境の問題を考えることが多いのですが、視聴覚教育になってからの私たちの共通の認識は、もはや生まれつきの頭の良さなどどうでもいいと言うぐらいのものになっています。

必要になる授業時間数は3倍ぐらい違うかもしれませんが、平均的な子どもでも、一流中学、一流高校の頭のよい子どもと同じレベルの英語力を身につけ、入試でほぼ満点が取れる様にできるからです。

これまで「頭が悪いとどうにもならない」と言うのが教育界の暗黙の了解だったわけですが、私はこれを完全に打ち破ることに成功したと言えると思います。

そういうわけで、平均的な生徒は大歓迎です。

ここまで頭が悪いと障害ではないかと言うレベルだと、保証外ですが、それでもかなりできるようになります。言語障害で文字が読めない、構音障害で発声ができないなどの人は、対象外です。また、言語習得期(11歳まで)を大幅に過ぎた成人の場合(年齢は人によります)は保証外です。このような特殊な場合に該当しなければ、ソフィア外語学院では、完璧な英語力が身につきます。

そういうわけで、個人的には、遺伝とか環境とかいう問題をあまり考えなくなっていますが、確かに親子や兄弟を教えていると、よく似ているということにはしばしば気づきます。だから、体感的にも、遺伝という問題がないわけではありません。

そうであっても、教育など環境によって変化が可能だと言うことは、実際のデータ、つまり、素データを見るとわかりやすいです。

一卵性双生児と二卵性双生児のIQの分布
一卵性双生児と二卵性双生児のIQの分布
引用元:Twins Can Help Us Understand How Genes and the Environment Shape Us (frontiers)

真ん中の斜めの直線に集まっていれば集まっているほど、知能指数の一致度が高いのですが、確かに、一卵性双生児の方が二卵性双生児よりも双子の知能指数の一致度が高いです。

しかし、よくデータを見ると、一卵性双生児でも、双子の一人は頭がよく、もう一人は頭が悪いと言う事例がいくつも存在することがわかります。たとえば、赤で示した四つの事例です。

一卵性双生児の双子で、一方の知能指数が高く、他方の知能指数が低い例を示すグラフ
一卵性双生児の双子で、一方の知能指数が高く、他方の知能指数が低い例

私は、こういう違いを安定してもたらすことができる教授法を開発することに成功したと言うことです。このグラフを見ていると、それ自体、驚くほどのことではないことがわかると思います。自然発生の様な場合でも、たまには、そういうことがあるからです。たぶん、驚くほどのことなのは、それを全ての生徒に対して常に実現できるようにしたことだと思います。